第一章

迷子少女のトリガーガード

 ――晴歴《せいれき》二〇六〇年。極東の国、オウキョウ。
 古い住宅街の広がるハズクシティの中に、異様な存在感を放つ円柱型の高層ビルがあった。
 『モルタワ』と呼び親しまれているそのビルは、大手私鉄会社であるハケイン鉄道が手掛けた、九十八階建ての複合商業施設。正式名称を、『モールタワー』と言う。
 バウムクーヘン状にビルの中央が空洞になっているモルタワは、その吹き抜け部分を利用し、宙に浮く無数のホログラム広告の中を、業務用ホバーバイクが飛び交うという独特な光景が見られるショッピングモールだ。
 ビルの低層には食品や日用品などのチェーン店、中層には宿泊施設やオフィスが存在するが、モルタワには他のビルには無い、小店舗群が存在する。
 六十一階から九十八階までの通称、闇市。ガラクタから、高額な希少商品まで、マニアックなものは何でも揃う、アンダーグラウンドな商店街だ。
 そんな闇市には、一階層につき五十以上もの小さな店舗がひしめき合っていて、ほとんどの店舗が個人経営。店舗の奥を住居と兼用にしている店主も、少なくない。
 レトロ電子機器を扱う蒔本《まきもと》コウという女性もまた、そんな闇市の住人の一人だった。

「おはヨ、あサ! おはヨ!あサ!」
 ピラミッド状の浮遊物体が、高速回転しながら朝を告げる午前六時。私は大あくびをしながらベッドの上で起き上がり、浮遊型の手のひらサイズのコンパニオンロボットP―0928、通称ピクに話しかけた。
「今日、何曜だっけ?」
「二〇六〇ネン一月十二日、げつよウ!」
「曜日以外の情報はいらないってば」
 今は一月。ここ、八十一階の窓外の景色から、雪をいただいたキトヨウ山が確認できる。確かあの辺りには、スキー場があったはずだ。
 歴史的建造物が多いキトヨウ区は、ここハズクシティよりも自然が豊かで、観光地やレジャー施設が多いことで有名だ。
 ハズクシティが属するヒタラカ区からキトヨウ区を走るハケイン鉄道には、スキー場の最寄駅もあったはず。今頃電車内に、『スキー場へはハケイン鉄道をご利用ください』と書かれた中吊り広告が掲示されているのだろう。
 私の住居兼店舗のある、ここモルタワのビルも、ハケイン鉄道の建造物で、そこそこ高額な家賃を毎月支払い続けている。
「ここ、狭すぎるにも程があるし、もうちょっと安くなってもいいのにね?」
 ピクに向かって何度言ったか分からない愚痴を言いながら、ベッドを下りる。キッチンはベッドから徒歩二歩。大人一人がやっと立てるくらいのスペースだ。
 古いトースターに、使い古されたフライパン。朝は目玉焼きトーストと決まっている。
 私がフライパンに火を入れると、ゴンという鈍い音が薄い壁の向こうから聞こえてきた。毎朝恒例、隣に住む電池屋のおっちゃん起床の合図だ。
 おっちゃんは背が高いので、起き上がる度に頭をぶつけてしまうらしい。
「ピク、今日のモルタワ情報」
 トーストの焼き上がる音を聞きながら、空中で手持ち無沙汰にしているピラミッドに話しかける。
「モルタワニュース! 二階スーパーイエーダ、今日は魚が安イ! 安イ! 八十一階、合鍵屋、店長ぎっくり腰デ本日臨時休業! 七十二階、たこ焼き屋たこちゃん、一個おまけサービスデー! 八十八階……」
 ピクが読み上げているのは、モルタワ各店舗の宣伝情報。モルタワの総営業店舗数は二千に迫る勢いなので、普段利用する店舗の情報だけをピックアップしている。
「たこ焼きおまけかぁ」
 出来上がった目玉焼きトーストを頬張りながら、私の頭は、中がとろとろの美味しいソースマヨたこ焼きでいっぱいになる。今日のお昼は、たこ焼きで決まりだ。
 朝食を食べ終えたところで、そろそろ開店準備をしなければ。
 私の店は『マキモト商店』といって、扱う商品はレトロ電子機器。基本的にはマニア向けの骨董店だ。古い電子機器の修理も受け付けていて、販売よりも修理受付がメインだったりする。
 店舗といっても、うちにはお客が出入りできる『店内』というものは存在せず、カウンター越しにお客とやり取りをする。販売品の展示は、カウンター下のガラスケース内のみだが、大型の商品は店舗の奥や、モルタワ内の貸倉庫に預けている。何せ、大概の商品はネット通販で売れてしまうので、展示の必要性が薄いのだ。
 ネット通販の管理はピクの仕事だ。P―0928型は個人経営に特化した機能を持つコンパニオンロボットで、この子のお陰で随分と楽をさせてもらっている。
「コウ、ツーハン売れタ! 二〇〇七年製電子辞書CA2225、入金ズミ! 商品所在地、オナガ倉庫!」
 噂をすればピクの業務報告だ。ピクは販売管理はしてくれるが、発送に関しては私が直接行う。商品が倉庫にあるということは、六十五階の貸倉庫まで取りに行けということである。
「はいはい、倉庫ね。了解」
 身支度を整えると、私は勝手口から店舗の外に出た。

 朝七時。この時間帯はどの店舗も開店準備で忙しなく、モルタワ中央の吹き抜けも、ホバーバイクの往来が激しい。
 なんとか空いているホバーバイクを探そうと辺りを見回すと、見慣れないものが目の端に映る。私の店舗のシャッター前に、見知らぬ女の子がしゃがみこんでいた。
「あ……。」
 女の子がこちらに気が付き、互いに目が合う。
「こんなところで、どうしたの?」
 私が話しかけると、女の子は安堵したような表情でこちらに駆け寄ってきた。
「あの、あの、隣のお店のおじさんが、ここの人は優しいお姉さんだって言ってて、ええと」
「隣のおじさんって、背の高い大柄なそこの電池屋の?」
 隣の旧式バッテリー屋、トノヤマ電池を指さすと、女の子はうなずいた。
「わたし、昨日から迷子、で、気づいたら夜になって、なんだか怖くなって泣きそうになってたら、おじさんが焼き芋とかカイロとかくれて……。」
 どうやら、今朝も起床時に頭をぶつけていたおっちゃんが、彼女を手助けしたらしい。
「おっちゃん、店の中に入れてくれなかったの?」
「……えっと、おじさんあんまり喋らないし、怖かったから」
「ありゃま」
 そういえば、おっちゃんは基本的に心を開いてくれるまでは無口なのだった。あまりにも無口で商品が売れないから、わざわざ若いバイト君を雇ったくらいだ。
「それで、隣のお店は優しい女の人だって言ってたから、お店が開くの待ってたんです」
「なるほど。優しい人だって褒められるのは悪くないかも。……じゃなかった、えーと、迷子なんだよね。迷子センターは……。」
 私が迷子センターの場所を思い出そうと頭を捻っていると、女の子に服の裾を引っ張られる。
「……ほんとは、帰りたくないんです」
「ふーむ、家の人と喧嘩でもしたの?」
「ううん、私……孤児院だから」
 孤児院。そういえば昨日、スーパーで買い物してた時に、修道服を着た無表情な女性が、この子くらいの小さな子供達を引率しているのを見かけた。どの子もなぜか楽しそうじゃなかったのが印象的で、よく覚えている。
 女の子に聞いてみると、やっぱりその団体の子らしい。事情は分からないけれど、どうやら孤児院に不満を持っている様子。孤児院に世話になったことはないけれど、私もある意味孤児のようなものなので、なんとなく、彼女を放っておけなかった。
「よぅし、じゃあ今日は帰りたくなるまで一緒に遊んであげよう」
 私がそう提案すると、女の子は目を輝かせた。
「お姉さん、いいんですか?」
「うん。モルタワがなんだか怖いところだったって思われて帰るのも、なんだか勿体無いしね。折角だから、楽しいところに案内するよ」
「ありがとうございます。私、ユイって言います。お姉さんはえっと、マキモト、さん?」
 女の子――ユイは、『マキモト商店』と書かれたうちの看板を見た。
「そうそう、蒔本コウ。コウでいいよ」
「コウさん。あっ、でも、お店は大丈夫ですか?」
「今から通販で売れたものを送らないといけないけど、それが済んだら大丈夫」
 さっき売れたばかりの電子辞書、あれは現在入手困難な辞書のデータが入っているらしく、希少価値が高い。今日の売り上げノルマは、達成されたに等しいのだ。
「ピク! シャッター開けて!」
 私が店のほうを向いて叫ぶと、ゆっくりとシャッターが上がっていく。
「コウ、と、女の子! お客サン?」
 シャッターが上がりきると、ピクがカウンターから飛び出してきた。
 内蔵されたカメラで私とユイを交互に捉えて、今の状況を推測しているようだ。
「コウさんのコンパニオン? かわいいなぁ」
 ユイからの言葉に、お調子者のピラミッドは嬉しそうに空中で高速回転した。
「ピク、この子はユイ。昨日から迷子みたいだけど、今日は私が一緒に遊んであげることにしたから、後のことは色々よろしく」
「しょうがナイ! まかせなサイ!」
 私がそう伝えると、ピクは上下左右に回転して合図し、そのまま店に戻ってシャッターを閉めてしまった。
 ピクに何かを伝達するときは、して欲しい事をはっきり伝える必要はない。これまでの私の行動パターンを学習し、AIがどうして欲しいのかを推測してくれるからだ。
 とはいえ、人間ほど精度が高いとは言い切れないので、たまに突拍子もない行動をすることもある。けれど私はピクのことを、そういう所も含めて気に入っていたりする。
「じゃ、行こっか」
「はい!」
 私は彼女の手を引き、空いているホバーバイクのもとへ移動する。
 名前の通り浮遊するこのスクーター型バイクは業務用に改造されたもので、公道を走るものとは比べ物にならないほど高くまで飛ぶことができる。ホバーバイクは九十八階建てのモルタワ内での移動や配達の必需品で、従業員か許可の下りた者しか乗ることができない。
「バイク、乗ったことは?」
「ない、です。バイクって、あんなに高く飛べるんですね」
 バイクに跨り、専用のキーを差し込むと、底のプロペラが回り始める。
「旧型の改造品だから、動力は電気だけどね。それじゃ、後ろに乗って!」

「わ、わ、わ、わ!」
 声を上げながら私の体に強くしがみついているユイの反応を聞きながら、昔の自分を思い出す。最初にホバーバイクに乗せてもらったとき、私も浮遊感が怖くて悲鳴を上げていたっけ。
 速度を出さないように気を付けながら、八十一階から六十五階までゆっくりと下降していく。
「大丈夫? やっぱ、いきなりホバーバイクは怖かったかな」
「ちょっとだけ。でも、この真ん中のとこを飛べるってすごいです!」
 後ろを振り向くと、ユイは目を輝かせながらきょろきょろと辺りを見渡していた。
 モルタワを三六〇度見渡せるこの吹き抜けを行き来できるのは、従業員の特権だ。ここをドローンで撮影したVR動画も、動画サイトで人気らしい。
「赤いのと緑のバイクは、何が違うんですか?」
「赤は外からの配達業者用で、私たちが乗ってる緑はモルタワの店員用だね」
 この深緑色のボディは、ハケイン鉄道の列車の色と同じだ。塗装も列車を意識していて、鉄道ファンにはたまらないらしい。
「なるほど。……あれ、あのバイクだけ銀色ですね」
 ユイが指さした真下辺りを覗き込むと、緑と赤が入り乱れる中に、一際目立つ銀色のボディをしたホバーバイクを発見した。そのバイクに乗っているのは、深緑色の帽子と制服を身に着けた男だ。
「まずいなぁ。あれ、ここの社長だ」
「え、社長さんなんですか」
「そうそう。口うるさいから見つからないようにしないと」
 急がなければ。幸い、六十五階まではあと五階程度。社長は五十五階付近を飛んでいるから、目立つ真似をしなければ見つからないだろう。……実は、ホバーバイクの二人乗りは、罰則は無いが原則禁止されているのだ。
 六十八、六十七、六十六。さあ到着だという瞬間、下方からホイッスルの音。そして間もなくして、
「蒔本コウ! 静止したまえ」
 ……と、残念ながらそんな怒声を耳にすることになった。
「静止って……。ごめんね、ユイ。見つかっちゃったからちょっとだけ付き合ってね」
 ホイッスルと社長の声に驚いたのか、ユイは黙って小刻みに首を縦に振った。

 六十五階のホバーバイク乗り場付近で停車して待っていると、法定速度を正しく守りながら、社長のバイクがゆっくりと近づいてきた。
「知っての通りホバーバイクの二人乗りは……。」
「注意対象、でしょ。でも、エスカレーターで十六階分降りるのが大変なのも理解してほしいなぁ。なぜか従業員は、一般客同伴でもエレベーターに乗っちゃいけない規則だし」
「規則は規則だ。それに、二人乗りには今後罰金を設ける予定だ」
「ええー、そんなことしたらまた嫌われちゃうよ若社長」
 ただでさえ、この若社長――波形《はけい》ヒロキは、前任で現会長の波形サダヒロから事業を引き継いだ際、『店舗健全化のため』と、規制を強化する方針に切り替えたため、影響を受ける従業員から毛嫌いされているのだ。周りの同業者達がピリピリする姿は、あまり見たくない。
「モールタワーの今後のためだ。今のところ、君には禁止事項の違反はなかったはずだが、注意事項に関しても、常習犯は罰金対象だ。今後は気を付けたまえ」
 彼はそう言うと、咳払いをしながら上層へと浮上していった。
 消えていく社長の後ろ姿を見ながら、
「なんだか、社長さんというより、スピード違反を捕まえてる警官さんみたいでした」
 とユイが言うものだから、私はつい吹き出してしまった。

「さて、すぐに仕事、済ませるね」
 社長に見つかるトラブルはあったものの、私とユイはなんとか六十五階にたどり着いた。六十一階から六十五階までの階の半分は、テナントではなく吹き抜けの大きな流通倉庫になっていて、闇市関係の荷物は下層からここに運び込まれてくるようになっている。
 倉庫エリアの壁は防音の透明ガラスになっているので、誰でも倉庫全体を俯瞰しながら、ドローンやフォークリフトが動く様子を確認することができる。ユイも気になるのか、横を通りかかる時にガラスの向こうをのぞき込んでいた。
 『オナガ倉庫』と書かれた、水色のネオン看板を掲げた貸倉庫屋に到着し、妙に重い入口のドアを開けると、ピンポンとチャイムの音が鳴った。
 店内は、中央に受付カウンターがあるだけで、一切の装飾物のない無機質な空間だ。受付カウンターには細身の男性。この男が店主であるタロちゃんこと、尾坂タロウ、なのだが。
「タロちゃんきたよー! コウだよー!」
 受付カウンターの目の前で、私は口に手を添えて大声で彼を呼ぶ。
「やー、それでさ? ん? ああ、お客さんだ。いらっしゃい。あれ、違うch?」
「タロちゃん、モルタワだよモルタワ。リアルの方の客」
 タロちゃんの目の周りは、薄い青のホログラムモニターで覆われている。これが意味するのは、今彼が見ているのは現実の風景ではなく、仮想現実世界だということだ。
「おじさん、仕事中にゲームで遊んでるの?」
 ユイの純粋な意見はごもっともだ。仮想現実技術には様々な使用用途があるが、メジャーなのは巨大な仮想世界に任意の3Dアバターを持って擬似生活を行う、所謂メタバースと呼ばれるもの。実際に通貨のやり取りもあるため、第二の世界と名高いのだが、小さな子供からすればそれは、ゲームで遊んでいるように見えなくもないし、実際、遊びの要素も豊富なのだ。
 タロちゃんはモルタワの貸倉庫のほうが副業で、本業はメタバース世界での行商人らしい。
「見知らぬ少女よ、こう見えてボクは遊んでるわけじゃあないんだなこれが」
 タロちゃんが耳に装着されたカフスに軽く触れると、目を覆っていたホログラムがスッと消える。
「さて、コウくん。と、可愛い少女よ。要件はなんだね?」
 ようやくこちらを向いてくれた彼は、不揃いな歯をのぞかせて、ニッと笑った。
「荷物を一つ受け取りに」
「はいはい、一点受取ね。それじゃ、毎度のことながら面倒だけど、そこの白枠の中に立ってちょうだいな」
 タロちゃんはそう言うと、受付カウンターの隣にある床を指さした。言われた通りそこに立つと、どこからか音声ガイダンスが聞こえてくる。
「生体認証システムです。『蒔本コウ』の本人確認を行います。これには、約三十秒掛かります」
 以前は認証キーを持参すれば、タロちゃんが目視で本人確認して倉庫内に入ることができた。
 けれど、モルタワ内の貸倉庫で武器のやり取りがされた事件をきっかけに、今は本人確認を厳重にしないと、貸倉庫の営業そのものが出来なくなってしまったのだ。
「波形社長のせいで、こっちの貸倉庫業は面倒になったよ。その生体認証も自腹だし、維持費もかかるからねぇ」
「とっても厳重ですね……!」
「厳重って、難しい言葉知ってるねぇ。将来は賢い子になるとボクが予言してあげよう」
「だといいなぁ」
 私が認証している間、ユイとタロちゃんが楽しそうに会話している。……タロちゃんが子供の扱いに慣れているとは知らなかった。
「『蒔本コウ』の本人確認が完了しました。生体認証システムを終了します」
 音声ガイダンスと共に、ピンポンという音が鳴った。この店の入り口にあるチャイムと、全く同じ音だ。
 ……もし本人認証に失敗したらどんな音が鳴るんだろうかと、ここに立つ度いつも考えてしまう。
「はい、お疲れさん。そしてこれまた面倒だけど、取り出す荷物がどれなのか、チェック入れてね」
 受付カウンターのテーブル上に表示されたホログラムディスプレイ。そこに、私の預けている荷物の一覧が表示される。
「前は個人情報の関係で、お客の預けてる荷物をこうして互いに確認するなんてこと、考えられなかったんだけどねぇ。どの品物を何点預けたのか、何を何点引き出したのか。全部確認してハケイン鉄道に報告しなきゃならない。ま、違法なものを預けられてないか確認できるという点では有難いんだけどさ」
「うちは古い家電や雑貨しか預けてないから、見られても全然問題ないけどね」
「そういえば、コウさんって、何屋さんなんですか?」
「あ、言ってなかったっけ。うちのマキモト商店は、マニアの人に古い電気駆動の製品を売ってるんだ」
「つまり、昔の珍しいものを売ってるお店ってことですか?」
「そうそう」
 タロちゃんからカードキーを受け取り、受付カウンターの横から倉庫に入る。倉庫内には人の背丈ほどのシャッター付きコンテナが整列していて、それぞれのシャッターに通し番号が振られている。私の借りているコンテナは二十六番で、部屋の一番奥にある。
「二十四、二十五……よし、あった」
 コンテナ横にあるスキャナーにカードキーをかざすと、ゆっくりとシャッターが上がっていく。コンテナ内部には、電子レンジや冷蔵庫などの大小様々な家電が収められていて、それぞれに私が入荷日や製造年代を書いた手書きのメモを貼っている。
「あの、コウさん」
「どうしたの?」
「コウさんって、XRを使わないんですか?」
 ユイはどうやら、私の手書きメモを不思議がっているらしい。
 XR――古くは『携帯電話』と呼ばれていた端末の進化系である、携帯型ホログラムディスプレイ投射システム。さっきタロちゃんの目を覆っていたホログラムも、耳に付けたイヤーカフス型XRから投射されたものだ。眼鏡型やネックレス型など、様々な機種が存在する。XRには空間や特定の物体に対してメモを残す機能が搭載されているため、大抵の人はその機能を使うのだ。
「買えないわけじゃないんだけど、私にはピクがいるからね。別にリアルタイムで情報が欲しいとも思ってないし、いいかなって」
「そっかぁ……。コウさんにとってピクは、いいお友達なんですね」
「かな。ピクも古い型番の子だから、何度か修理してるうちに言うこと聞いてくれなくなることもあるけどね」
 そうしてユイと雑談している間に、目当ての電子辞書を発見した。コンテナ内の角に設置した棚から単三電池を取り出して、電源チェック。この古い規格である単三電池は既に市販されていないので、お隣のトノヤマ電池にはいつもお世話になっている。
「よし、じゃああとはこれを発送したら、今日の仕事は終わり。長いことつき合わせちゃってごめんね」
「いえ、コウさんの仕事をお邪魔するわけにはいかないですから」
 しっかりした子だなぁ。私がユイくらいの頃には、きっとこんな丁寧な返しは出来なかったはずだ。そんなことを考えつつ、私はオナガ倉庫を後にした。
 タロちゃんのような面白い人がいればいいのだが、モルタワの発送カウンターは残念ながら事務的で、ユイも見ていて退屈なはず。
 さっきも気になっていたみたいだし、流通倉庫の様子を見ていた方が楽しいだろうと考えた私は、すぐ済むからとユイを通路で待たせ、荷物の発送に向かった。

 手続きを済ませた私は、外で待たせていたユイのもとに駆け寄る。てっきり流通倉庫側を見ているものだと思っていたけれど、彼女は吹き抜け側の手すりに寄り掛かり、飛び交うホバーバイクを見つめて暇を潰していたようだ。
「お待たせ、ユイ。これからどうし……。」
 そう話しかけた直後、私の声は爆音でかき消されてしまう。突如モルタワ中央の吹き抜けに白衣を着た女性の巨大ホログラムが映し出され、彼女の持ち歌らしき楽曲が物凄い音量で流れ始めたからだ。
 白いDJブースを操作するホログラムの白衣の女性は、不敵な笑みを浮かべて気持ちよさそうに歌唱している。あまりにも音が大きいので会話もままならず、二人で呆然としながらDJパフォーマンスを鑑賞することになった。
 三分ほどのホログラム映像の最後に、『CLUB98』という文字が映し出される。最上階にあるナイトクラブの宣伝だったらしい。
「びっくりした……。こんなに大きい音出して大丈夫なんですか?」
「いや、多分駄目だと思う。今頃、さっきの社長がお怒りなんじゃないかな。CLUB98の人たち、結構やんちゃだって聞くからなぁ」
 CLUB98のゲリラ的な宣伝映像が終了すると、丁度モルタワ営業開始の合図である鐘の音が館内に鳴り響く。どうやら八時になったようだ。
 営業開始時間になったので、館内BGMが流れ始める。モルタワの吹き抜けにも、一斉に商品や店舗宣伝のホログラム広告が表示されたのだが、巨大ホログラムの爆音パフォーマンスに圧倒されたばかりなので、どれもこぢんまりとして見えてしまう。
 パチパチパチパチパチパチ。
 同じ階から、拍手の音が聞こえる。これは、さっきの爆音広告に対しての称賛なのだろうか。私とユイは顔を見合わせ、音のする方へ目を向ける。
 するとそこには、見知った顔があった。
「アサ!」
 丘野アサ。私と同い年の女性で、私の数少ない、商売絡みではない友人の一人だ。
 パチパチパチパチパチパチ。
 アサは一向に拍手をやめようとしない。
「アサ? おーい、アサー?」
 アサに近寄り、至近距離で話しかける。
 すると、ようやくこちらに気が付いて、彼女は小さな悲鳴を上げた。
「わ! び、びっくりさせないでよ、コウ。……あれ、その子は?」
「ユイです。お姉さん、さっきの歌手の人が好きなんですか?」
 ユイはアサに興味津々だ。昔から子供に好かれやすい子だったけれど、どうやら今日も例外ではないらしい。
「うん、彼女はルノカ。最上階のCLUB98の専属DJで、ネットでも有名なの。さっきのが、彼女の代表曲『18,000』で、動画サイトの再生回数は一憶回越えなんだよ」
 好きなことを問われて、待ってましたと言わんばかりに得意気に話すアサ。そういえば、最近ハマってるアーティストがいるって言ってたっけ。
 CLUB98のDJ、ルノカ。彼女がアサの最近のお気に入りらしい。
「さっきは音が大きくてびっくりしましたけど、お姉さんが笑顔になれるなら、きっとルノカさんって素敵な方なんだろうなぁ」
「ふふ、君、さてはとっても良い子だね? 私は丘野アサ。あなたのお名前は?」
「私はユイで……。」
 ユイがアサに名乗りかけた瞬間、そこそこ大きな腹の音が聞こえてきた。
 音の主は、どうやら目の前の小さな少女らしい。
「すみません」
「ごめん、ユイ。そういえば、ちゃんと朝ご飯食べてなかったんだっけ」
 彼女は一晩中屋外でじっとしていたのだ。トノヤマ電池のおっちゃんから焼き芋を貰ったとは聞いていたけれど、朝食のことをすっかり失念していた。
「慣れてるから、だいじょうぶです」
「駄目駄目、そんなの私が許しません。そうだ、よかったら、うちで食べていく?」
 アサの提案に、ユイは迷惑になるからと、何度も首を横に振る。
「アサは、モルタワの孤児や恵まれない子供たちに、居場所や食事を提供するボランティアのリーダーだから、遠慮しなくても大丈夫。まあ、アサのとこには生意気な子供がいっぱいいるから、ユイがそれでもよければ、だけどね」
 私がアサのボランティア団体について説明すると、ユイはぴたりと首を振るのをやめた。
「ボランティア……。あの、アサさんのとこの子供たちは、楽しそうにしてますか?」
 ユイは真剣な眼差しでアサに問いかける。
 彼女のその姿に、昨日スーパーで見かけた孤児院の子供たちの、無機質な表情が脳裏を過ぎる。ユイが帰りたくないのには、きっと複雑な事情が絡んでいるのだろう。
「アサ、ユイは孤児院の子なんだ」
 私がアサにそう伝えると、薄々気が付いていたのか、ゆっくりと首を縦に振った。
「ユイちゃん。うちにくる子は、私が絶対笑顔にさせるって、決めてるんだ」

 六十五階の倉庫街の片隅に、毎日決まって三回、食欲を誘う香りを漂わせる場所がある。モルタワ孤児支援ボランティア団体、『ゆうやけ』の本拠地だ。
 貧富の差が拡大している昨今、孤児院やボランティア施設の数は、年々拡大しているらしい。ゆうやけは、朝昼晩の三食を無料で提供する施設で、その経費は、募金や賛同者の資金援助によって成り立っている。
 元々孤児だったアサがこのモルタワでボランティア団体のリーダーになるまでの努力を、私はずっと見守り続けてきた。自身の経験から、子供たちに孤独な幼少期を送ってほしくないというアサの思いは多くの賛同者を得て、今は安定して運営が続いている。
 けれどアサはいつも自分のことは後回しで、資金を頂いている身だからと、支援者に対して過度に謙虚な態度を取る癖がある。だから私は、あえてここに資金援助はしていない。彼女とは、純粋に友人として仲良くしたいからだ。
 そのかわり、家電修理は私の仕事だ。家電の修理代金として、ここの夕飯メニューを孤児たちに紛れてご馳走になるのが、私のささやかな楽しみなのである。
「ママだ! おかえりなさい」
「ママ、さっきのおっきな音のやつ、ネットで話題になってるみたいだよー」
「ママ、今朝エンジ長老を見かけたよ!」
 ゆうやけに到着すると、子供たちが一斉にアサの周りに群がっていく。
「こらこら、一気に話しかけられても困るってば」
 ゆうやけの朝食時間は朝の七時。既に八時を回っているので、義務教育の子供たちは近所の学校に行くか、部屋の奥で通信教育の教材を開き始めている時間だ。
 状況によっては、働きに出ている子供もいるかもしれない。
 アサを囲んでいるのは、義務教育前の小さな子供たち。正確に把握しているわけじゃないけれど、大体二十人前後の孤児たちが出入りしているのではないだろうか。
 ここは孤児院ではないけれど、食事の時間以外にも、孤児たちの居場所として施設を開放しているのだ。
「アサさん、大人気ですね」
 ユイがクスッと笑うと、子供たちの視線は一斉にユイへと集まっていく。
「見たことない子だー」
「名前は? 一緒に遊ぼうよ」
「ぼくもー」
「あの、えっと」
 ユイは困惑しているが、その表情は柔らかい。やっぱり、大人といるよりも子供同士のほうが安心したりするのだろうか。
「みんなストップ! ユイちゃんはまだ朝ご飯食べてないから、お話しするのはそれからね」
 アサはそう言うと、ユイを奥の和室へと案内する。
「すぐ準備するから、ちょっと待っててね」
「アサさん、忙しそうなのに、ありがとうございます」
 アサがキッチンへ移動したのを確認すると、私はユイの様子を見て、少し考えこんだ。ユイはゆうやけの子供たちが気になるのか、そわそわしているように見える。引き続きモルタワ内を案内しようかと思っていたけれど、もしかするとその必要はないのかもしれない。
「あの、コウさん。私、少しここでみんなとお話がしたいです」
 どうやら、私の予想は的中したらしい。
「私も今、そうなんじゃないかって思ってたところ。ここは夕方までずっと開いてるから、しばらく居ても大丈夫だよ」
 私の言葉に、ユイはほっとした表情でお礼を言ってくれた。

 昼食を調達してから店に戻ることを決めた私は、ゆうやけにユイを預けて七十二階に向かった。
「一個おまけしとくよ」
 七十二階にあるたこ焼き屋『たこちゃん』のおばちゃんからたこ焼きを受け取ると、独特の特製ソースの香りが鼻孔をくすぐる。ピクからの情報通り、今日はたこ焼き一個おまけのサービスデーだった。
 近年タコの漁獲量が異常なほど増えているらしく、たこちゃんのタコは、たこ焼きから足がはみ出るほど大きい。
 モルタワ名物と名高いこれをユイと一緒に食べようと思っていたけれど、子供同士で会話も弾んでいそうだし、もしかすると、お昼もゆうやけで食べることになるかもしれない。一応、アサとはピクを通して連絡が取れるので、どうなるかはユイの意思次第だ。
 今日はもう店を閉めると決めているので、店舗に戻って雑用でもこなしながら、ユイを待つことにする。

 ホバーバイクで八十一階まで戻ってくると、うちの店の隣にある『トノヤマ電池』から、大学生バイトの小里《おざと》ユウヤ君が、私に向かって大きく手を振ってきた。
「コウさーん、今日も元気っすかー?」
「こら、仕分け作業に集中しろ」
 サボるバイトに怒っている大柄の男性。彼がトノヤマ電池の店長、殿山《とのやま》アキヒロだ。
「まあまあおっちゃん、落ち着いて。声掛けただけでサボったわけじゃないんだし」
 殿山のおっちゃんは、旧式のバッテリーを数多く取り揃える『トノヤマ電池』を、一人で切り盛りしている。高身長で大柄な体型、加えて無口なせいか、なかなか新規の客が寄り付かないとぼやいていた彼に、バイトを雇ってみてはどうかと提案したのは私だ。
 その結果、数か月前から近隣の薬学部の学生である小里ユウヤ君を雇うことになったわけだけれど、今度はバイトの私語が多くて気が散ると、また新たな悩みが生まれたようだ。
「コウさんの言う通りっすよ、手を振っただけなのに……あ、コウさんそれ、もしかしてたこ焼きっすか? いいなぁ俺も後で買いに行こうかな」
「……手が止まってる」
 どうやら彼は、店先で電池を分類別に仕分ける仕事をしているらしい。
「店長手厳しいっす……。」
 私に話しかける度怒られる彼が、何だか不憫に思えてきた。
「そういえばコウ、今朝店の前に小さい子供がいなかったか」
 ユイのことだ。それを聞いて、おっちゃんに言いたかったことがあることを思い出した。
「おっちゃん、女の子をこの寒い季節に、一晩外に放り出すのはどうかと思うよ」
「放り出したわけじゃない。警備員を呼ぼうとすると嫌がられたから、一応うちの店舗内に入るようには促したんだ。だが、どうにも怖がられちまってね」
「……おっちゃん、ユイを睨みつけたりしなかった?」
「してねぇよ」
 ということは、単にユイは殿山のおっちゃんの見た目に畏縮してしまっただけなのかもしれない。もし雑に扱っていたら怒ろうかと思っていたけれど、どうやらその必要はなさそうだ。
「ユイ……ユイ……?」
 『ユイ』という名前を聞いて、バイトの小里君が反応する。
 何か知っているのか、小里君は首を傾げながらXRでホログラムモニターを起動し、モルタワのアプリを立ち上げた。
「あーやっぱり。多分その子、今モルタワ内で捜索依頼が出てますよ。さっきモルタワアプリを開いたとき、トップに出てたんすよ」
 小里君はモニターを二本指でピンチアウトして拡大し、私に見せてくれた。サイトのお知らせ欄には、彼女の名前と顔写真、そして、『発見者には謝礼金を弾みます』という文面が添えられていた。

「ただいま、ピク……何してるの?」
 私が店舗に戻ると、ピクは部屋の壁に何かを投射していた。
 ピクことP―0928は旧型なので、XRのように宙に浮かぶホログラムモニターを生成することができない。そのため、サイトの閲覧や動画再生の際は、映像を壁などに投影する必要がある。
 ピクが投射していたのは、ユイの写真。彼女のほかにも、見知らぬ子供たちの写真が並んでいて、それらはまるで、何かのデータベースのようだった。
 またか。と私はため息をつき、口をへの字に曲げた。
「こらピク! 勝手に変なこと調べるなって言ったでしょ!」
 私はピクに怒鳴ったが、それを無視してピクはブツブツとデータを読み上げていく。
「ユイ、女性、九サイ、メッソ教児童養護施設、またたき星在籍! 牧師、血眼でユイを探しテル! とんでもない量の広告出しテル! 謝礼金の額もヤバ、」
「ピク! 他人の個人情報を勝手に調べちゃ駄目って言ったでしょ。私に聞こえるように読み上げるのも今後一切禁止!」
 私がさらに大声を出すと、ようやくピクは投射していた映像を消し、動きをピタリと止めた。
「最重要禁止命令として、人物解析データの口頭伝達を追加しまシタ」
「分かったならよろしい。というか、そもそも解析しちゃだめだから」
 そろそろ本気で基盤、変えないといけないかも。
 ピクは元々、廃棄処分寸前のスクラップだったものを、私が拾ったり購入したりした部品をつなぎ合わせて修繕したものだ。そのせいか、ピクは普通なら検索できないような場所から、データを引き出すことができるらしい。
 私の改造のせいなのか、元からそういう隠し機能を持つ危険な機種だったのかは定かではないけれど、たまに今みたいなことが起こるので、困っている。
「もう、ピクのせいでたこ焼きが冷めた」
「それ、ピク関係ナイ!」
 ……冷めたたこ焼きをほおばりながら、考える。ユイは、本当は迷子なんじゃなくて、自らの意思で逃げ出してきたのではないだろうかと。

 最後のたこ焼きを食べ終えた頃。コンコンと、勝手口を叩く音。そして扉の向こうから、
「コウさん、ユイです」
 という、少し焦った様子のユイの声が聞こえてきた。私が慌てて扉を開けると、そこには何かを決心したような表情の少女が立っていた。
「コウさん、私、孤児院に帰ります」
「そっか……。大丈夫? 無理、してない?」
 私のありきたりな心配の言葉に、ユイはきっぱりと首を振った。
「はい。コウさんやゆうやけのみんなと話してるうちに、自分がやらなきゃいけないこと、分かったんです。それに、孤児院の仲間も私を待ってるはずだから」
「やらなきゃいけないこと、かぁ」
 彼女の覇気のある表情は、何かを強く決意した人の顔つきだ。ゆうやけの子供たちと交流して、何かいい影響があったのかもしれない。
 ……私は昔、こういう表情をした人を、間近で見続けてきた。
 その人は結局、何もかも諦めてしまったけれど、彼の言葉は私の心に強く残り続けている。
「……やるなら徹底的にやる。できるまでやったもんが勝つ」
「え……?」
 ユイが目を丸くしている。しまった、どうやら思い出した言葉を口に出していたらしい。
「ああごめん、ユイ。これ、父さんの口癖でね。ユイの真っすぐな目を見てたら、なんだか思い出しちゃった」
「……なんだか、勇気を貰えた気がします。コウさん、私、きっとまたここに来ます。それで、ええと、コウさんのお店でいっぱい何か買っていきます!」
 真剣な眼差しを見せたかと思えば、両手を広げて『いっぱい』を表現する子供らしさを持つユイに、私はつい口元を緩ませる。
「ふふふ、ユイは将来のお客様ってわけだ。楽しみにしてるよ?」
「はい!」

 ――ユイが将来的に、今日の会話を覚えていてくれているかどうかは分からない。
 けれど私は、彼女がいつうちの店を訪れてくれてもいいように、地道に細々と、ここで店を営んでいこうと思ったのだった。

 ――数日後。
 蒔本コウが電子機器の修理に集中している中、P―0928ことピクは、マキモト商店のカウンター越しに、吹き抜けを飛び交うホバーバイクやホログラム広告の動きをカメラで追っていた。
 カウンター越しの風景から、主人であるコウに提供できる有益な情報は得られないと認識し、ピクが店の内部にカメラを動かそうとしたその時。
 短いジングルが鳴ったかと思うと、吹き抜けのホログラムモニターが、一斉にアナウンサーの姿を映したものに切り替わる。臨時ニュースだ。
『たった今入った情報です。キトヨウ区カミヨリ町の教会が、謎の武装集団により襲撃されました。目撃者の情報や監視カメラに残った不鮮明な映像によると、武装集団は子供のみで構成されており……。』
 アナウンサーが臨時ニュースを読み上げるが、コウは修理に集中していて聞いていない。
 そんな中、ピクは映像に一瞬映った武装した少年少女のシルエットを解析していた。そのうちの一つが、数日前接触した『ユイ』という少女と一致することを確認したピクは、他のシルエットも、ユイの孤児院のデータベースと照合し、次々と特定していく。
 しかし、コア部分に刻まれた『人物解析データの口頭伝達の禁止』という最重要禁止命令がそれをコウに伝えることを拒んだため、ピクがユイに関する情報を伝えることは無かった。

マキモト商店 第一章:迷子少女のトリガーガード

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